大判例

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東京地方裁判所 昭和29年(タ)60号 判決

原告 高橋久孝 外一名

被告 検察官

一、主  文

一、原告両名が本籍朝鮮京畿道金浦郡金浦回雲陽里三十一番地亡福田悦久(朝鮮名李源植)の子であることを認知する。

二、訴訟費用は国庫の負担とする。

二、事  実

原告等法定代理人は、

主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、

一、原告等の実母訴外高橋孝子は、昭和二十四年四月三十日から、朝鮮人である訴外亡福田悦久(本籍主文に記載の通り)と事実の婚姻を為して同棲し、爾来、右訴外人が昭和二十八年十一月十八日死亡するに至るまで同棲を続け、その間に、原告等を懐胎し、昭和二十六年三月六日原告久孝を、昭和二十八年五月二十五日原告和可代を各分娩した。従つて、原告両名は、右訴外亡福田悦久の子である。

二、然るところ、右訴外亡福田は、原告等を認知しないで、前記の日に死亡したので、検事を被告として、本訴請求に及んだ次第である。

と述べた。<立証省略>

被告は、

請求棄却の判決を求め、答弁として、原告等主張の請求原因事実は不知と述べた。<立証省略>

三、理  由

一、認知の訴は、原告と原告がその父であると主張する者との間に、父と子と云ふ事実関係が現に存在すると云ふ事実を、判決によつて確定することを、求めることをその実質とする訴であるから、(原告と原告がその父であると主張する者との間に、法律上の父子関係が生ずるのは、判決によつて、父子関係があると云ふ事実が確定された結果、法律によつて付与される効果であるから、それは判決による事実確定の法律上の効果に過ぎない。)、確認の訴である。(但し、当事者適格の制限を受ける。)(確認の訴であれば、確認の利益を有する限り、何人からでも、訴を提起し得る筈であるが、法律は、公益上の見地から、当事者適格に制限を加えて居る。)

二、事実上の父子関係は、その関係の一方の当事者である子が生存して居る以上、その子にとつては、現在の事実関係として存在して居るから、他の一方の当事者である父が死亡して居ても、現在の事実関係として、その確定を求め得ると解すべきである。従つて、父が死亡して居ても、子から認知の訴を提起し得る。

(民法第七百八十七条はこの理を認めたものである。但し、公益上の見地から、訴提起の時期に制限を加えて居る。)(最高裁判所の判例は、認知の訴を以て、形成の訴として居るが、(昭和二九年四月三〇日、第二小法廷判決、二六年(オ)八六六号)、父の死亡後に、父子関係を形成し得ると云ふことは事実に反するし、又、当事者の一方が死亡した後に形成権を行使し得ると云ふことは不可解である。従つて、この判例には従ふことを得ない。)

三、事実上の父子関係は、その確定を求める者即ち原告側に、一方的に、之を確定し得る。蓋し、事実上の父子関係は、相互関係であるから、一方に、その関係があるとされれば、当然、他方にもその関係があることになるからである。従つて、原告に日本国の主権が及びさえすれば、日本国の裁判所は、その裁判権を行使して、原告側に、一方的に、その確定を為し得る。

四、訴外亡福田悦久が朝鮮人で、原告等主張の日に、死亡したことは、後記認定の通りであるが、訴外高橋孝子が、原告等の肩書本籍にその本籍を有する日本人であり、原告等が、その子であることが、公文書である甲第一号証(戸籍謄本)と原告等法定代理人尋問の結果とによつて認められるから、原告両名は日本人であり、従つて、日本国の主権は、当然、原告等に及ぶから、本件認知の訴については、日本国の裁判所にその裁判権がある。而して、日本国の裁判所に訴を提起した以上、日本国の訴訟法に従ふべきであるから、原告等がその父であると主張する前記訴外人の死亡後に於て、検事を被告として提起した原告等の本件訴は適法である。

五、認知の訴は、前記の通り、確認の訴であつて、而もその確認の対象は、父子関係の存在すると云ふ事実の確定であるから、実体法的法律によつて処理すべき実体関係は存在しない。従つて、争の実体に適用すべき法律選択の問題、即ち準拠法確定の問題は生じない。故に本件については、法例の適用はない。

認知の訴を以て、或は認知の要件と解し、或は又、認知の方式と解して、その準拠法を、法例第十八条、又は第八条によつて定めようとする説(孰れも国際私法学説上の有力説)があるが、それ等の説は、認知の訴の本質に関する考へ方の相違に由来するもので、認知の訴を以て、前記の様に解すれば、右の二説は、孰れも従ふことを得べき説ではない。

尚、民法第七百八十七条は、認知の訴の当事者適格とその訴の提起の時期に制限を加へた規定であると解すべきであるから、主として訴訟法上に於て、その意義を有し、従つて、法廷地法として、認知の訴について、当然、その適用があるが、認知の準拠法とはならないとしなければならない。

六、原告両名提出の各証拠を綜合すると、原告両名の実母訴外高橋孝子が、その主張の日に、訴外亡福田悦久(朝鮮人)(本籍はその主張の通り、朝鮮名は李源植)と事実上の婚姻を為して同棲し、爾来、同訴外人が、昭和二十八年十一月十八日(原告等主張の日)死亡するに至るまで、同棲を継続し、その間に、原告両名を懐胎し、原告両名主張の各日に、夫々、原告両名を分娩したことが認められるので、原告両名は、右訴外亡福田の子であると推定される。この推定を覆すに足りる証拠は一も存しない。

七、而して、右訴外亡福田が、原告等を認知しないで、原告等主張の日に死亡したことが、公文書である甲第一号証(戸籍謄本)と原告等法定代理人尋問の結果の結果とによつて認められ、且、その死亡の日から、三年以内である昭和二十九年三月二十三日に、本訴が提起されたことが、当裁判所に顕著であるから、原告両名の本件認知の請求は正当である。

八、仍て、原告両名の請求を認容し、訴訟費用の負担について、人事訴訟法第三十二条、第十七条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 田中正一)

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